不動産を売却しようとした際に、隣地との境界上に越境物があると判明するケースは少なくありません。屋根の軒先や塀、樹木の枝などが敷地境界を越えていると、買主が見つかりにくくなったり、売却価格に影響が出たりすることがあります。
こうした問題を解決するために用いられるのが「越境の覚書」です。しかし、覚書の作成方法や記載内容、隣地所有者が協力してくれない場合の対処法まで詳しく解説している情報は多くありません。
この記事では、越境物の種類別の覚書のポイントから、札幌特有の積雪・凍上による越境リスク、さらには覚書なしでも売却できる方法まで、実務に即した内容を解説します。
越境物とは、自分の土地または隣地の建物・構造物・植栽などが敷地境界線を越えて相手側の土地に入り込んでいる状態を指します。まずは越境物の種類と、なぜ売却時に問題となるのかを確認しましょう。
越境物は大きく分けて以下の種類があります。それぞれ覚書の対応方法が異なるため、正確に把握しておくことが重要です。
越境物がある不動産は、買主にとって将来的なトラブルリスクを抱えることになります。隣地所有者との紛争の可能性や、建て替え時に越境解消の費用が発生する懸念から、購入を敬遠されるケースが多いのです。
実際に、越境物がある土地は通常価格より5%〜15%程度値引きされる傾向があります。さらに住宅ローンの審査で金融機関が難色を示すこともあり、買主の資金計画に影響を与えることも少なくありません。
こうしたリスクを軽減し、スムーズな売却を実現するための手段が「越境の覚書」です。
越境の覚書とは、隣地所有者との間で越境の事実と将来の対応方針を書面で取り決める合意書のことです。法的な拘束力を持たせるためにも、記載事項と作成手順を正しく理解しておきましょう。
覚書には以下の内容を漏れなく記載する必要があります。
これらの5項目が揃っていれば、買主や金融機関に対して越境問題への対応済みであることを示すことができます。売却の方法と費用の詳細はこちらもあわせてご確認ください。
覚書の作成は、以下の流れで進めるのが一般的です。
覚書の締結は売却活動を開始する前に完了させるのが理想的です。売却活動中に覚書が未締結だと、購入希望者が現れても契約に進めないケースがあるためです。
越境物の種類によって、覚書に記載すべき文言や注意すべきポイントは異なります。ここでは種類別の実務的な違いを解説します。
屋根や軒先の越境では、「建物の建て替え時に越境を解消する」という文言が基本です。越境距離が10cm〜30cm程度であれば、覚書の締結によって売却に大きな支障が出ないケースが多く見られます。
塀やブロック塀の越境では、塀の所有者がどちらであるかが争点になりやすい点に注意が必要です。共有塀の場合は、撤去・再築の費用負担割合まで覚書に記載しておくことが望ましいでしょう。
基礎の越境は最も解消が難しい類型です。地中にあるため目視確認ができず、解消には建物自体の取り壊しが必要となります。覚書には「建物解体時に越境を解消し、解消費用は越境物の所有者が負担する」と明記するのが一般的です。
樹木の越境は、枝と根で法的な扱いが異なる点に注意が必要です。2023年の民法改正により、越境した枝については一定の条件のもとで隣地所有者が自ら切除できるようになりました。覚書には剪定の頻度や費用負担についても記載しておくと、将来のトラブル防止に役立ちます。
給排水管の越境では、「配管の修繕・交換時に自己の敷地内に配管を移設する」という条項を盛り込みます。札幌では冬季の凍結による配管破損リスクがあるため、緊急修繕時のアクセス許可についても覚書に含めておくことをおすすめします。
越境の覚書を締結するには隣地所有者の協力が不可欠です。しかし実務上、協力を得られないケースも一定数存在します。拒否された場合の具体的な対応策を解説します。
越境の程度が軽微な場合(越境距離が数センチ程度)は、覚書がなくても売却できることがあります。ただし、買主に対して越境の事実を重要事項説明で告知する義務があるため、隠すことはできません。
また、隣地所有者が不明・連絡不能の場合や、相続で権利関係が複雑化しているケースでは、覚書の締結自体が現実的に困難です。このような場合は買取業者への売却が現実的な選択肢となります。ワケあり物件の売却についてはこちらで詳しくご紹介しています。
北海道・札幌の不動産には、本州とは異なる寒冷地特有の越境リスクがあります。道内での売却をお考えの方は、以下のポイントを把握しておくことが重要です。
札幌の年間降雪量は約5メートルに達し、屋根に積もった雪が隣地に落下する「落雪越境」は非常に多いトラブルです。特に無落雪屋根ではない古い住宅では、大量の雪が隣地の敷地や車両に被害を与えるケースが毎年発生しています。
また、札幌では地中の水分が凍結・膨張する「凍上」により、ブロック塀や基礎が年間数ミリ〜数センチずつ移動することがあります。建築当初は境界内に収まっていた塀が、長年の凍上によって越境状態になっているケースは、市街地エリアの住宅街でも珍しくありません。
地下鉄沿線やJR沿線の住宅密集地では、隣地との距離が狭いため、わずかな凍上でも越境が発生しやすい状況です。
札幌での越境の覚書には、以下のような寒冷地特有の条項を盛り込むことが有効です。
これらの季節条項は、北海道の不動産取引に精通した不動産会社でなければ提案が難しい内容です。
越境物の存在は売却価格にどの程度影響するのでしょうか。価格低下の要因と、損失を最小限に抑えるための事前準備を解説します。
越境物がある不動産の価格下落幅は、越境の種類や程度によって異なります。
例えば、札幌で2,000万円の土地に中程度の越境がある場合、覚書があれば1,800万〜1,900万円、覚書がなければ1,600万〜1,800万円程度まで下がる可能性があります。
売却前に以下の準備を行うことで、価格への影響を最小限に抑えることができます。
土地売却の詳細はこちらでも、売却前の準備について詳しくご案内しています。
越境物がある不動産の売却方法は、大きく「仲介」と「買取」の2つがあります。それぞれで覚書の重要度や必要性が異なる点を理解しておきましょう。
仲介売却では、一般の個人が買主となるため、越境物に対する不安が大きくなりがちです。覚書が未締結の状態では、内覧まで進んでも契約に至らないケースが約6〜7割に上るとも言われています。
また、買主が住宅ローンを利用する場合、金融機関が越境の覚書の提出を融資条件とすることがあります。覚書がなければローン審査が通らず、結果的に売却機会を逃すことになりかねません。
仲介で売却する場合は、覚書の締結がほぼ必須と考えておくべきでしょう。
一方、不動産買取業者への売却では、覚書が未締結でも対応できるケースが多くあります。買取業者は越境問題の解決ノウハウを持っており、自社で隣地所有者と交渉して覚書を取り交わすことが可能です。
買取の場合、売却価格は仲介と比べて市場価格の7〜8割程度になることが一般的ですが、以下のメリットがあります。
特に、隣地所有者が覚書の締結を拒否しているケースや、相続で早期に現金化したいケースでは、買取が有効な選択肢です。当社でも越境物がある不動産の買取に対応しておりますので、お気軽にご相談ください。無料査定・お問い合わせはこちらからお申し込みいただけます。
A: 一般的には売主側が主導して作成します。不動産会社が覚書の文案を作成し、土地家屋調査士の測量データをもとに越境の事実を正確に記載する流れが基本です。
覚書の作成費用は5万〜10万円程度で、売主側が負担するケースが多く見られます。売却活動を始める前に締結しておくことで、スムーズな取引につながります。
A: 売却は可能ですが、仲介では買主が見つかりにくくなる傾向があります。代替手段としては、専門家を交えた再交渉、越境物の自主撤去、または買取業者への売却が考えられます。
買取業者であれば覚書未締結の状態でも対応可能なケースが多く、隣地との交渉も業者側で引き受けてくれるため、売主の負担を軽減できます。
A: 越境の程度や種類により異なりますが、覚書を締結済みであれば5〜10%程度、未締結の場合は10〜20%程度の価格低下が一般的な目安です。
ただし、軽微な越境(枝や軒先の数cm程度)で覚書がある場合は、価格にほとんど影響しないこともあります。事前の測量と覚書の準備が、価格低下を抑える最も効果的な対策です。
A: 覚書がなくても売却自体は可能ですが、越境の事実を買主に告知しなかった場合、契約不適合責任を問われるリスクがあります。一般的に、売主は知っている瑕疵について買主に告知する義務を負います。
万が一、売却後に越境が原因で買主と隣地所有者の間でトラブルが発生した場合、売主に損害賠償を請求される可能性もゼロではありません。トラブル防止のためにも、覚書の締結を強くおすすめします。
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