戸建ての売却を進めようとしたとき、隣地との越境が発覚して手続きが止まってしまうケースは少なくありません。国土交通省の調査によると、境界トラブルを抱える不動産取引は全体の約15%にのぼるとされています。
越境の問題は放置すると売却価格の下落や契約解除につながるリスクがあります。しかし、正しい手順を踏めば解決できるケースがほとんどです。
この記事では、越境物の種類別の対処法から隣地所有者との交渉術、覚書の作成方法まで、実務レベルで使える情報を網羅的に解説します。札幌など寒冷地特有の越境リスクについてもお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。
越境の基本的な定義と、不動産取引でなぜ問題になるのかを整理します。
越境とは、建物や構造物、植栽などが隣地との境界線を超えて相手の土地に入り込んでいる状態を指します。民法では土地の所有権は境界線によって区切られており、越境は所有権の侵害にあたります。
不動産取引において越境が問題となるのは、買主が将来的にトラブルを引き継ぐリスクがあるためです。金融機関も越境のある物件に対しては融資審査を厳しくする傾向があり、売却のハードルが上がります。
実際に、越境が原因で売買契約が白紙撤回されるケースは年間数百件規模で発生しており、事前の確認と対処が欠かせません。戸建て売却の基本はこちらもあわせてご確認ください。
越境物は大きく5つの種類に分類でき、それぞれリスクの度合いが異なります。
一般的に、地上部分の越境(樹木・屋根・塀)は比較的対処しやすい一方、地中や基礎の越境は発見・解決ともにコストがかかります。
越境問題では「自分が越境している側」か「越境されている側」かで対応手順が大きく変わります。立場別に整理して解説します。
ご自身の建物や樹木が隣地にはみ出している場合は、売主として主体的に解決を進める必要があります。
売主側が越境している場合は、原則として売主の費用負担で是正するのが一般的です。是正に要する期間は内容により2週間〜6ヶ月程度と差があります。
隣地の建物や樹木がこちらの敷地に入り込んでいる場合も、売却前に対処が求められます。
隣地からの越境の場合、2023年施行の改正民法により、一定の条件を満たせば隣地の枝を自ら切除できるようになりました。ただし事前に催告が必要で、相手方に到達してから相当期間(一般的に2週間程度)経過後に切除可能となります。
ここでは越境物の種類ごとに、具体的な解決手順・費用感・依頼すべき専門業者を解説します。
樹木・枝の越境は最も件数が多い反面、比較的解決しやすい越境です。
改正民法の規定により、隣地の枝は催告後に一定期間経過すれば切除できますが、根については従来どおり自ら切り取ることが認められています。
屋根・雨樋の越境は構造物の改修が伴うため、より慎重な対応が求められます。
屋根の越境は数センチ単位のことが多く、是正よりも覚書による解決が現実的なケースが約70%を占めます。
塀・フェンスの越境は境界線上に建てられたものの所有権が不明確な場合に特に問題となります。
地中配管の越境は目視で発見できないため、対処にも時間がかかります。
基礎部分の越境は建物の構造に直結するため、是正が最も難しい越境です。建て替え時の是正を約束する覚書での対応が一般的で、覚書があれば売却を進められるケースが多くあります。
越境問題の解決には隣地所有者との交渉が避けて通れません。円満に合意を得るための具体的な進め方を解説します。
交渉の成否は最初の切り出し方で決まるといっても過言ではありません。以下のポイントを押さえましょう。
交渉の場では録音やメモを取り、合意内容を後日書面化することが大切です。口頭の約束だけでは後からトラブルが再燃するリスクがあります。
隣地所有者が交渉に応じない、または合意できない場合にも対処法はあります。
多くの場合、ADRや筆界特定制度の段階で解決に至ります。訴訟まで発展するケースは全体の約5%以下とされており、まずは話し合いでの解決を目指すことが重要です。
越境を是正せずに売却を進める場合、覚書の作成が事実上の必須条件となります。記載すべき項目と作成のポイントを解説します。
覚書には以下の項目を漏れなく記載する必要があります。
承継条項は特に重要です。これがないと売却後に新しい所有者が覚書の効力を争う可能性があります。
覚書の作成は当事者間で行うことも可能ですが、専門家に依頼するのが安全です。
費用負担は、越境している側が負担するのが一般的です。ただし双方の合意のもと折半とするケースもあります。売却にかかる費用の詳細もご参照ください。
北海道、特に札幌では本州とは異なる越境トラブルが発生します。寒冷地ならではのリスクを理解しておきましょう。
札幌の年間降雪量は約600cmにのぼり、積雪に関連した越境問題が多発します。
これらは経年で徐々に進行するため、長年住んでいるお客様ご自身も気づいていないことが少なくありません。
札幌で戸建てを売却する際は、積雪のない時期(5月〜10月)に現地確認を行うことが重要です。
市街地エリアでは隣地との距離が近い住宅が多いため、地下鉄沿線やJR沿線の住宅密集地では特に注意が必要です。当社でも査定時に越境の有無を重点的に確認しております。ワケあり物件の売却についてはこちらもご覧ください。
越境問題を抱えた戸建てでも売却は可能ですが、法的リスクと価格への影響を理解しておく必要があります。
2020年の民法改正により「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に変わりました。越境の事実を知りながら告知しなかった場合、売主は損害賠償や契約解除のリスクを負います。
告知義務の対象となるのは、売主が知っている越境の事実すべてです。「気づかなかった」という言い訳は、専門家による調査を怠った場合には通用しにくい傾向にあります。
トラブルを未然に防ぐため、売却前に境界確認測量を実施し、越境の有無を明確にしておくことが大切です。
越境がある物件は、買主にとってリスク要因となるため価格交渉の材料になりやすい点に注意が必要です。
重要事項説明書には越境の事実と対処状況を正確に記載し、覚書の写しを添付して買主に説明することが重要です。透明性のある説明がスムーズな売却につながります。相続物件の売却など複雑な案件でも、越境の事前整理が成約率を高めます。
A: 2023年4月施行の改正民法により、隣地の枝についても一定の条件を満たせば自ら切除できるようになりました。具体的には、枝の切除を催告したにもかかわらず相当期間(一般的に2週間程度)内に切除されない場合などが該当します。
ただし、事前の催告なしにいきなり切ることは認められていません。まずは隣地所有者に書面で通知し、記録を残したうえで対応することをお勧めします。
A: 覚書の作成は、仲介を担当する不動産会社が対応するケースが最も多く、次いで司法書士への依頼が一般的です。司法書士に依頼した場合の費用は3万〜8万円程度が目安となります。
費用負担は、越境している側が負担するのが通例です。ただし、双方の話し合いにより折半とするケースもあり、状況に応じた柔軟な対応が可能です。
A: 越境の覚書(合意書)が適切に作成されていれば、多くの金融機関で住宅ローンの審査は通る傾向にあります。覚書には越境の事実確認、現状維持の合意、将来の是正時期、承継条項が含まれていることが重要です。
ただし、越境の規模が大きい場合や覚書がない場合は、融資を断られることもあります。事前に不動産会社を通じて金融機関に相談しておくと安心です。
A: 越境の事実を知りながら買主に告知せずに売却した場合、契約不適合責任に基づく損害賠償請求や契約解除を求められるリスクがあります。告知義務違反として売主の責任が問われる可能性が高くなります。
トラブルを防ぐためには、売却前に境界確認測量を行い、越境が判明した場合は是正または覚書の作成を済ませたうえで、重要事項説明書に正確に記載することが大切です。
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