不動産を売却すると、譲渡所得税の計算で「減価償却」が大きく影響します。特に建物部分は年数の経過とともに価値が下がるため、取得費から減価償却費を差し引く計算が欠かせません。
しかし、建物の構造や用途によって計算方法が異なり、正しく理解していないと税金を多く払いすぎるケースもあります。
この記事では、札幌圏の実勢価格を使った具体的な計算事例を交えながら、不動産売却における減価償却の仕組みと計算手順をわかりやすく解説します。
不動産を売却したときの利益(譲渡所得)は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて算出します。この取得費を正しく計算するために、減価償却の知識が不可欠です。
譲渡所得の基本的な計算式は次のとおりです。
ここで重要なのは、建物の取得費は購入時の金額そのままではなく、所有期間に応じた減価償却費を差し引いた金額になる点です。土地は経年で価値が減らないため、減価償却の対象にはなりません。
減価償却費の計算を誤ると、取得費が実際より大きくなったり小さくなったりします。取得費を過少に計算すると譲渡所得が膨らみ、結果として税額が増えてしまいます。
たとえば、減価償却費を100万円少なく見積もった場合、長期譲渡所得の税率20.315%で計算すると約20万円の過大納付になる可能性があります。正確な計算が手取り額を左右するのです。
売却の費用全般については売却の方法と費用の詳細もあわせてご確認ください。
減価償却費の計算では、建物の構造ごとに定められた法定耐用年数と償却率を使います。構造によって計算結果が大きく変わるため、ご自身の物件がどれに該当するか確認しておきましょう。
住宅用建物の法定耐用年数と定額法の償却率は以下のとおりです。
なお、居住用の非事業用資産の場合は耐用年数を1.5倍にして計算します。木造なら22年 × 1.5 = 33年(償却率0.031)、RCなら47年 × 1.5 = 70年(償却率0.015)となります。
居住用不動産の売却時に使う減価償却費の計算式は次のとおりです。
減価償却費 = 建物の取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
計算手順を整理します。
なお、経過年数が耐用年数を超えている場合でも、建物取得価額の95%が減価償却費の上限となり、5%は残存価値として残ります。
減価償却の計算方法は、その不動産が事業用か居住用かによって大きく異なります。この違いを理解していないと、計算を誤る原因になります。
事業用の賃貸物件や店舗は、毎年の確定申告で減価償却費を経費として計上します。建物の価値を少しずつ費用化していくため、帳簿上の建物価額は年々減少していきます。
一方、マイホーム(居住用)の場合は毎年の経費計上はありません。売却するときに初めて取得費の計算で減価償却費を差し引くという仕組みです。
居住用と事業用では適用する耐用年数が異なる点にご注意ください。
居住用のほうが耐用年数が長くなるため、1年あたりの減価償却費は少なくなります。つまり、居住用のほうが取得費の目減りが緩やかで、一般的に税負担は軽くなる傾向です。
収益物件(事業用不動産)の売却をお考えの方は収益物件の売却についてはこちらをご覧ください。
ここからは、札幌圏の成約価格帯をもとにした具体的な計算事例を3パターンご紹介します。実際の数字で計算することで、ご自身の物件に当てはめやすくなります。
札幌の地下鉄沿線エリアでは、築15年前後のRC造マンションが2,500万円〜3,000万円前後で成約するケースが多くみられます。以下の条件で計算してみましょう。
減価償却費 = 2,100万円 × 0.9 × 0.015 × 15年 = 約425万円
建物の取得費 = 2,100万円 − 425万円 = 1,675万円
取得費合計 = 1,675万円 + 1,100万円 = 2,775万円
譲渡所得 = 2,800万円 −(2,775万円 + 仲介手数料等約96万円)= マイナスとなり、この事例では課税なしです。札幌の地下鉄沿線は土地の資産性が比較的高く、このように売却損が出るケースもあります。
札幌のJR沿線エリアでは、築30年前後の木造戸建てが1,200万円〜1,800万円程度で取引されています。
減価償却費 = 1,500万円 × 0.9 × 0.031 × 30年 = 約1,255万円
建物の取得費 = 1,500万円 − 1,255万円 = 245万円
取得費合計 = 245万円 + 1,000万円 = 1,245万円
譲渡所得 = 1,500万円 −(1,245万円 + 譲渡費用約55万円)= 約200万円
長期譲渡所得の税率20.315%を適用すると、税額は約40万円です。ただし3,000万円特別控除を適用できれば非課税となります。北海道の木造住宅は寒冷地ならではの断熱構造が施されていますが、減価償却の計算上は一般的な木造と同じ耐用年数が適用されます。
札幌市街地エリアの築10年・軽量鉄骨造戸建ては2,800万円〜3,500万円の価格帯で取引される傾向です。
減価償却費 = 2,400万円 × 0.9 × 0.025 × 10年 = 540万円
建物の取得費 = 2,400万円 − 540万円 = 1,860万円
取得費合計 = 1,860万円 + 1,400万円 = 3,260万円
譲渡所得 = 3,200万円 −(3,260万円 + 譲渡費用約110万円)= マイナスとなり、課税なしです。
札幌のマンション売却に関する詳しい流れは札幌のマンション売却の流れをご参照ください。
相続で取得した不動産や、古い物件では購入時の書類が見つからないケースが少なくありません。取得費の内訳がわからない場合の対処方法を解説します。
土地と建物の内訳を算出する方法として、一般的に以下の手段が使われます。
道内の物件では、特に相続不動産で契約書が残っていないケースが多くみられます。その場合は固定資産税の課税明細書を確認し、土地と建物の評価額比率で按分する方法が実務上よく使われています。
取得費がまったく不明な場合、売却価格の5%を概算取得費として使うことが認められています。ただし、この方法は取得費が極端に小さくなるため、税額が大きくなる傾向があります。
たとえば売却価格が2,000万円の場合、概算取得費はわずか100万円です。実際の購入価格が1,500万円であれば、1,400万円もの差が生まれ、税額に約284万円の差が出ることになります。書類を探す努力は十分に報われるといえるでしょう。
減価償却費を算出したあと、最終的な税額を計算するまでの一連の流れを整理します。
不動産の譲渡所得にかかる税率は、所有期間によって大きく異なります。
所有期間は売却した年の1月1日時点で判定します。2021年4月に購入した物件は、2027年1月1日以降の売却で長期譲渡に該当します。税率が約2倍違うため、売却時期の判断は非常に重要です。
マイホームを売却した場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。先ほどの事例2(築30年・木造戸建て)で確認してみましょう。
札幌圏では築年数の経った戸建ての売却で譲渡所得が発生しても、多くの場合この特別控除の範囲内に収まります。ただし、特例の適用には確定申告が必要ですのでご注意ください。
戸建ての売却について詳しくは戸建て売却の詳細はこちらをご覧ください。
A: はい、居住用の不動産でも売却時の取得費を算出する際に減価償却費を差し引く計算が必要です。
ただし、居住用(非事業用)の場合は法定耐用年数を1.5倍にした数値で計算するため、事業用と比べて1年あたりの減価償却費は小さくなります。
A: 居住用の木造住宅の場合、耐用年数33年(22年×1.5)、償却率0.031で計算します。建物取得価額が1,500万円であれば、1,500万円×0.9×0.031×30年=約1,255万円です。
なお、耐用年数を超過しても建物取得価額の95%が上限となり、5%は残存価値として残ります。
A: 長期譲渡所得の場合、税率は20.315%です。たとえば減価償却費が500万円であれば、その分だけ取得費が減少し、譲渡所得が増えるため最大約101万円の税負担増になり得ます。
ただし、3,000万円特別控除などの特例が適用できる場合は、実質的に非課税となるケースも多くあります。
A: 一般的には、購入当時の固定資産税評価額の比率で土地と建物に按分する方法が広く使われています。課税明細書や名寄帳を市区町村で取得できます。
それでも不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として使えますが、税額が大きくなる傾向があるため、できる限り書類を探すことをおすすめします。
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